【eシフト声明】 脱原発の決定を前提に、具体的な実現方法の提示を

【eシフト声明】脱原発の決定を前提に、具体的な実現方法の提示を
エネルギー・環境会議の「選択肢」提示に関する意見

2012年6月13日
eシフト:脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会

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福島第一原発事故を受け、日本は「脱原発依存」を柱に従来のエネルギー政策を見直す転換点に立っています。6月8日、エネルギー・環境会議が開催され、「選択肢に関する中間的整理」が提示されました。しかしその議論は、福島原発事故を二度と繰り返さないという大前提に基づいたものとは言えません。eシフト:脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会は、「選択肢に関する中間的整理」について下記改めて要請します。

 【1】選択肢の設計について

6月中に予定されている選択肢の提示にむけ、下記の点が前提として考慮されるよう求めます。

 (1)原発依存度に関する選択肢について

 「選択肢に関する中間的整理」では、2030年時点での電力における原子力発電の割合として0%、15%、20~25%が提示されています。しかし本来は、「脱原発」を前提として、電力システムの改革や産業構造を転換など、どのようにそれを実現するのかという道筋をこそ議論すべきです。20%以上の選択肢は、原発の新設やリプレースを前提としており、15%の選択肢であっても、事故で被害を受けた原発の利用を始め、現実性の低いものです。さらに、基本問題委員会や原子力委員会に寄せられている、脱原発を望む多数の声とも乖離しています。

(2)核燃料サイクル政策に関する選択肢について

 脱原発を決定したとしてもなお、使用済み核燃料処理の管理・処分という重大な問題を避けて通ることはできません。負の遺産をせめて増やさないためにも、原発ゼロとともに核燃料サイクルの中止を早急に決め、課題と向き合うことが必要です。また、即時原発廃止と使用済み核燃料の全量直接処分(核燃料サイクルの停止)がもっとも経済的であるとする「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」の試算結果は重く受け止められなければなりません。

(3)温暖化対策に関する選択肢について

 原子力発電については「ゼロエミッション電源」として、日本の温暖化対策の主流と位置付けられてきました。しかし、温室効果ガスを排出しないのは発電の過程のみであり、燃料の採掘から放射性廃棄物管理・処分までのライフサイクルをみれば、大量のCO2を排出しています。さらに、温排水をはじめ熱エネルギーの7割を環境中に捨ててしまうというきわめて効率の悪い発電システムです。排熱による直接の環境影響も無視できません。さらに、放射能汚染の影響を考えれば、最も環境・社会的負荷の高い発電方法といえます。原子力発電は、温暖化対策の手段からは除外すべきです。

一次エネルギーベースでの省エネ、電力システム改革の強化による再生可能エネルギー普及の加速化、石炭利用の抑制、過渡的な天然ガスシフトなどを進めることによって、温暖化対策と脱原発は両立します。省エネ率を一律に置いて、原発の割合で温暖化対策が左右されるような印象を与える選択肢の出し方はすべきではありません。

(4)省エネルギーに関する考え方

 中間整理案では、2030年時点の「電源構成」にしたがって整理されています。しかし、エネルギーの利用方法は電力以外にも、熱や輸送燃料としての利用などがあり、電力は一次エネルギーの4割を占めるにすぎません。また従来の発電方法では、電力は発電過程で投入したエネルギーの約6割が廃熱となるエネルギーで、本来は発電過程にこそ省エネの大幅な余地があります。したがって最終消費電力だけによる選択肢ではなく、一次エネルギー全体での省エネを含んだ選択肢を示すべきです。

さらに、人口減少や産業構造の転換など社会の変化の想定などを見込むべきです。

(5)2030年時点のみでなく、そこに至る過程と将来像についての議論を

2012年5月時点で稼働している原発がゼロとなっている現実も踏まえ、2030年に向けてどのような道筋をたどるのか、さらにその先の2050年に向けてどのような将来像を描くのかを提示することも同時に重要です。現在、2030年時点での電源割合についての議論のみに比重が置かれていますが、原発をゼロにしていく方針を示した上で、将来の日本のエネルギー利用のあり方についてビジョンと具体的なプロセスを議論し、国民にわかりやすく示すことが必要です。

上述の点について、エネルギーシナリオ市民評価パネル(エネパネ)が5月30日に発表した報告書「エネルギー・環境のシナリオの論点」では、エネルギーと地球温暖化対策のあり方を考える上で重要な論点が検討され、注意してみるべき経済や産業のあり方、社会の選択肢とその意味が示されています。その中でも、原発、気候変動、化石燃料の限界と制約を踏まえれば、私たちには「省エネ・自然エネ切り替え社会」を選ぶしか道はない、と勧告されています。

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【2】エネルギー政策見直しにおける原則について

eシフトは2011年12月、「脱原発・エネルギーシフトの基本方針」を発表し、下記の10項目を基本原則として提示しています。選択肢の提示に向け、これらの視点が十分に検討され、盛り込まれるよう求めます。

(1)安全・安心の確保

 エネルギーの供給や消費によって、人々の生活や健康が損なわれることがないようにしなければなりません。また、危険の存在によって、人々に不安を与え続けることがないようにしなければなりません。これからのエネルギー・システムは、自然災害への耐性も強く、大規模な災害が起きた際にも、人々が生活を営む上で最低限のニーズを満たすことが必要です。

(2)持続可能性の達成

 地球規模および世界各地での環境、貧困・開発問題は、多くの地域・分野で悪化しています。有限な資源および環境の中で、現在世代および将来世代にとっての公平性を維持しつつ、多様な価値を尊重した社会経済活動を営むことが必要です。新しいエネルギー社会のあり方は、それらの問題を悪化させず、解決へと向かわせるものでなければなりません。

(3)真の自給の追求

 日本の国土は自然資源に恵まれています。途上国が急速に発展をしており、エネルギーの安全保障は重要な課題です。国内の自然資源を有効に活かし、日本に必要なエネルギーの大部分を国内で自給できる体制をつくることが必要です。

(4)気候変動の抑制

 ますます深刻化している気候変動問題に対処することは緊急かつ重要な課題です。電気や熱等のエネルギーの供給側だけでなく、消費側のシステムも温室効果ガスの排出量を最小にするものでなければなりません。

(5)地域資源を活かした地域社会の活性化

 災害対策や地域活性化のためには、一ヶ所に集中して依存する従来のエネルギー・システムを改め、分散型で、地域の自然資源等を活かしたエネルギー・システムを構築することが必要です。また、その活用を通じて、地域社会の活性化がはかられるべきです。

(6)世界のエネルギー貧困解決への貢献

 世界には、未だに14億人もの人々が、電気にアクセスできていないという「エネルギー貧困」が存在しています。日本におけるエネルギー技術や産業の発展は、こうした問題の解決につながるものでなければなりません。

(7)経済成長の再考

 これまでの日本のエネルギー供給計画は、従来型の経済成長を前提に考えられていました。これからは、持続可能な豊かさを追求する中で、経済発展とエネルギー供給の関係を見直す必要があります。成長ではない「満足度」の指標が求められています。

(8)核不拡散

 日本の原子力政策は、再処理や高速増殖炉など世界の核不拡散戦略に抜け道をつくりかねないプルトニウム利用政策です。大量の核兵器保有にも通じるようなプルトニウム保有を前提とした原子力政策は改められなければなりません。被爆国であり非核三原則を有する立場からも、核の拡散につながるような政策は断じて避けなければなりません。

(9)国際平和

 エネルギー資源をめぐる権益の争いは、しばしば国際紛争の直接的・間接的原因となってきました。地下資源ではなく、地表の太陽光や風、水、森林等を活用することで、技術協力や人材交流を進め、むしろ、国際平和の希求に役立つエネルギー利用とならねばなりません。

(10)情報および政策決定へのアクセス

 これからのエネルギー政策は、市民・国民が全員で議論し立案して行くようなものとなるべきです。市民・国民が積極的にエネルギーに関係する意思決定に参画するためには、まず広くエネルギー関係情報が公開され、誰でも政策決定プロセスへのアクセスができるよう、保障されなければなりません。

以上

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問い合わせ先:eシフト事務局(国際環境NGO FoE Japan内)
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