【eシフト声明】 原子力規制委員会および原子力規制庁の設置をめぐるNGO声明

原子力規制委員会および原子力規制庁の設置をめぐる
与党法案(原子力組織制度改革法案)と
野党法案(原子力規制委員会設置法案)
に関するNGO声明

2012年5月29日
eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

>PDFはこちら 120529_kiseicho_eshift

2011年3月11日の福島第一原発の深刻な事故を受けてなお、日本の原子力発
電をめぐる状況は混迷を深めています。脱原発依存を明確にしたはずの政府方
針は、エネルギー政策について議論をしている基本問題委員会や原子力大綱策
定会議などで、事務局や一部委員の強引な議事運営により、脱原発依存という
基本方針が吹き飛ばされようとしています。
一方で、事故から1年以上が経過しながら、いまだに原子力安全・保安院が
存続し、これも消えているはずの原子力安全委員会とともに、さまざまな案件
に判断を行っています。新しい原子力規制組織は誕生せず、その基本的なあり
ようをめぐって与野党が激しく対立をしているという状況です。

私たちは、これからつくられる原子力規制組織は、原発を廃炉にするプロセ
スの管理、廃炉後の放射性廃棄物の管理、核物質管理などが重要な役割となる
と考えます。また、今後は運転しないということであれば、原子力防災や避難
の手順、危機管理などの対策は不要となり、政府の予算支出も減らすことがで
きると考えます。

私たちは原子力規制組織の独立性の観点では「野党案」を支持しますが、ま
だ上記の観点が与党案にも野党案にも欠落しています。
民主党・自民党・公明党だけではなく、全会派が審議に参加する委員会での議
論を深め、今の日本にとって必要な原子力規制組織が設立されることを求めて
います。
以下、そのための私たちの提案です。

1.復興特別委員会で審議を

法案の審議は、少数会派のいない環境委員会ではなく、復興特別委員会に付
託し審議すべきだと思います。民主、自民、公明の3党は、「原子力規制庁」
設置関連法案を、多くの少数会派が委員を持たない環境委員会に付託しようと
しています。しかし、今後の原子力規制のあり方を大きく決定づける重要法案
を一部の会派のみで審議することは、民意の切り捨てに等しく、公正さに欠け
ています。したがって法案審議は、全会派が審議に参加できる震災復興特別委
員会で審議するよう求めます。

2.原子力基本法の目的削除

脱原子力依存という基本方針を打ち出した政府として、原子力基本法の目的
から、「原子力の研究、開発及び利用の推進」は削除すべきであると考えま
す。政府が提出した「原子力組織制度改革法案」の原子力基本法の改正案に
は、第一条(目的)に「原子力の研究、開発及び利用の推進する」ことが明示
されたままです。野党案では目的が「原子力の利用の推進」と言換えられただ
けです。どちらも、原子力利用を依然として国の方針として掲げています。政
府が真剣に脱原発依存に向けての政策を進めるのであれば、原子力基本法 か
ら「原子力の研究、開発及び利用の推進」という項目を削除する必要がありま
す。

3.原子力規制委員会(野党案)は「原子力ムラ」からの独立を

5人の原子力規制委員会委員をはじめ、規制委員会のもとに設置される専門
審査会等の委員には、原子力利害関係者および利益相反に当たる者はなれない
という禁止規定を設ける必要があります。
原子力規制機関の委員などの要員には、原子力を推進してきた立場の利害関
係者(関連企業や推進する立場での専門委員など)および利益相反の専門家
(金銭授受が明らかなもの)はなる事ができないというルールが確立されなけ
れば、原子力施設の安全は確保されず、国民からの信頼も得られません。

4.重要なバックフィット制度を取り入れること

政府案では、最新の知見を既存施設にも反映し最新基準への適合を義務付け
る制度であるバックフィット制度の導入が安全確保のための規制改革の重要点
とされています。私たちも、その視点が重要であることに同意します。しかし
政府案法文にそれがきちんと位置づけられているのか、バックフィットの文字
はなく、その精神も読み取ることができませんでした。新しい原子力規制組織
は、バックフィットの定義、ルール、評価方法などを明確に示すべきであると
思います。法案審議の中で、最も重要なポイントはここにあると考えます。

5.新しい技術基準策定のプロセスをしめすこと

福島原発事故が引き起こされた背景には、これまで前提とされてきた技術基
準が甘すぎたこと、安全性を担保できるものでなかったことがあります。多く
の原発立地自治体の首長や議会でも、そのことが指摘をされ、今回の地震や津
波の経験を踏まえた技術基準の再検討、耐震設計審査指針など、安全審査の指
針類の見直しが不可欠として求められています。新原子力規制組織は、その再
検討や見直しのプロセスを明確にすべきです。

6.再稼働禁止命令・運転停止命令を含む強い権限を

与党案では、要綱や準備室説明では「運転停止命令も規制強化の重要点」と
書かれていましたが、条文中では読み取れません。新原子力規制組織は、みず
から調査し、判断する能力と同時に、経営や国家政策とは別の、安全性の立場
から再稼働禁止命令・運転停止命令権限がなければなりません。

7.廃炉のルールと明確な基準を

原子炉稼働後40年の廃炉が政府案には書かれています。ただし、20年延長の
特例措置があり、その判断基準も不明確で政府案は廃炉ルールを有名無実化す
る恐れがあります。原子炉は耐用年数30年として設計されてきており、原子炉
内の試験片は40年廃炉にすら対応していません。私たちとしては、なし崩し的
な40年廃炉ルールも認めることはできません。40年廃炉とするならば、その根
拠を明確に示すべきだと思います。根拠が示されないのであれば、設計通り30
年で廃炉とすべきです。

8.事業者をチェックする能力ある人材確保とチェックできる仕組みを

事業者責任を明確にするには、電力会社や、実際に作業をしている東芝や日
立、三菱等の製造メーカー、その下請事業者等に対し、より直接的、専門的に
チェックし、検査指導し、その上で安全を担保する仕組みをつくらなければな
りません。現在のように検査を原子力安全基盤機構(JNES)等の外部機関に委
託するのではなく、原子力規制組織内に技術者を養成し、手抜きや不正を見抜
く力量を持つことが不可欠だと思います。そのためには、原子力発電に対し批
判的な立場で活動している技術者を積極任用することが、非常に有効な手立て
です。

9.原子力規制組織職員の不正・隠ぺいに対する法的罰則規定を

「事業者責任の強化」という言葉で、事業者に責任が転嫁され、原子力規制
組織の責任が軽減されることがあってはなりません。今回の福島原発事故でも
第一義的責任は事業者とされ、原子力安全・保安院や原子力安全委員会等の政
府機関の責任はきわめて曖昧にされています。規制組織職員の不正・隠蔽さら
に不作為や、重大なミスなどについてきちんと責任を取らせる仕組みをつくる
ことが必要です。

10.情報公開の徹底と、住民参加プロセスを

今回の福島原発事故は、過酷事故が引き起こす深刻な放射能汚染の被害は原
発から60キロ圏の人々にもおよび、それを超える広範囲な人々にも放射能汚染
の影響を及ぼしました。ところが、政府案には「公聴会」という言葉も「市民
の意見を聞く」という言葉もありません。住民への情報公開の徹底や、住民参
加プロセスが完全に抜け落ちており、それは野党案も同じです。
施設周辺住民の意見のみでなく、今回の飯舘村や福島市の一部のように60キ
ロ圏を超えても深刻な汚染を受ける可能性がある自治体や住民、さらに食品汚
染などの放射能汚染の影響を受ける、広範な地域の自治体や住民意見も反映す
ることが必要であり、私たちは以下のシステムを提案します。

a) 原子力施設に関する重要な決定が行なわれる場合や、重大なトラブル等の
発生時には、関係自治体や関係住民を対象に、説明会、公聴会、公開討論会な
どの開催を制度化する。
b) 上記の説明会等で質問されたことには、一方的に聞き置くのでなく、必ず
回答するというルールが必要である。
c) 常に原子力施設の状況に関心を持ち、緊急時の備えを十分に整えるために
も、関係自治体や関係住民による「常設協議会」を設立する。
d) 関係自治体や関係住民の範囲は、その原子力施設の影響を受ける可能性が
あるより広範な範囲としなければならない。

11.国会福島原発事故調査委員会の提言と報告書を待つこと

福島原発事故によって、原発の安全規制が、従来の原子力安全・保安院や安
全委員会によっては、全くできていなかったことが明らかになりました。この
ためあらたな規制機関の必要が提起されました。それには福島原発事故やそれ
に対する対応などの検証がもっとも必要なはずです。国会福島事故調査委員会
は20回近い委員会を開き、事故処理にあたった当事者はもちろん海外の原子力
規制についてなど各方面の参考人を招致して意見を聞いています。そして6月
以降に報告書を出すことになっています。新たな規制庁法案はこうした委員会
の貴重な調査の結果をふまえた提案を待ってこそ、充実したものになると考え
ます。事故調査委員会の黒川委員長も委員会の目的のひとつに『未来に向けた
提言』をあげています。

以上、与野党の審議の中で十分に議論つくしていただき、あるべき新しい原子
力規制組織の形を明確にしていただくようお願いいたします。

eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

◆本件の問い合わせ先:
eシフト事務局  http://e-shift.org
国際環境NGO FoE Japan内
〒171-0014 東京都豊島区池袋3-30-22-203
Tel: 03-6907-7217 Fax: 03-6907-7219

※eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)には、以下の団体が
参加しています

国際環境NGO FoE Japan/環境エネルギー政策研究所(ISEP)/原子力資料情
報室(CNIC)/福島老朽原発を考える会(フクロウ)/大地を守る会/NPO法人
日本針路研究所/日本環境法律家連盟(JELF)/「環境・持続社会」研究セン
ター(JACSES)/インドネシア民主化支援ネットワーク/環境市民/特定非営
利活動法人APLA/原発廃炉で未来をひらこう会/気候ネットワーク/高木仁三
郎市民科学基金/原水爆禁止日本国民会議(原水禁)/水源開発問題全国連絡
会(水源連)/グリーン・アクション/みどりの未来/自然エネルギー推進市
民フォーラム/市民科学研究室/国際環境NGOグリーンピース・ジャパン/
ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン/フリーター全般労働組合/
ピープルズプラン研究所/ふぇみん婦人民主クラブ/No Nukes More Hearts/
A SEED JAPAN/ナマケモノ倶楽部/ピースボート/WWFジャパン(公益財団法
人 世界自然保護基金ジャパン)/GAIAみみをすます書店/東京・生活者ネッ
トワーク/エコロ・ジャパン・インターナショナル/メコン・ウォッチ/R水
素ネットワーク/東京平和映画祭/環境文明21/地球環境と大気汚染を考える
全国市民会議(CASA)/ワーカーズコープ エコテック/日本ソーラーエネル
ギー教育協会/THE ATOMIC CAFÉ/持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)/環
境まちづくりNPOエコメッセ/福島原発事故緊急会議/川崎フューチャー・ネ
ットワーク/地球の子ども新聞/東アジア環境情報発伝所/Shut泊/足元から
地球温暖化を考える市民ネットえどがわ/足元から地球温暖化を考える市民ネ
ットたてばやし