1/24 新潟県知事米山隆一氏講演の記録
- 2018.01.26
- エネルギーシフト その他 政府のエネルギー政策の動向 新しいエネルギー政策提言
新潟県知事 米山隆一氏講演会「エネルギー基本計画:原子力政策と地域の未来を問う」
2018年1月24日、東京の憲政記念館にて、米山知事にご講演いただきました。
(講演会案内:http://e-shift.org/?p=3484)
「原発処理費用70兆円の衝撃」
「日本の発電量、電力需要」
「原発事故が社会に課すコスト」
「県知事に再稼働を判断する権限はあるのか」
「新潟県の3つの検証」
「地域の経済への影響」
「日本のエネルギー政策について」
>UPlanさんによる録画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=eprJqu1irqg
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【2018年1月24日 新潟県知事米山隆一氏 講演記録】
「原発処理費用70兆円の衝撃」
私は昔原発推進のことを言っていたが、反対に変わりました。
その大きな理由は原発処理費用70兆円の衝撃でした。私は正直、事故後は日本だからすぐに止められるだろう、5年ぐらいかかるとしてもちゃんと整理するだろうと思っていたんですね。
それがどんどん変わっていって、日本経済研究センターの試算で、福島第一原発事故の廃炉費用は総額50~70兆円に及ぶと。
ちなみに、日本の財政希望は100兆円くらい。税収は60兆円くらい。
ということは、70兆円というのは日本の税収1年分が吹っ飛ぶ金額ですね。
なかなかすごい額がかかる。
「日本の発電量、電力需要」
日本の電力需要量は、福島原発事故の前、10年以上前からすでに減っている。
その最大の理由はLEDと言われています。照明が一気にLED化して、電力需要が減り、
そこに人口減少も加わっています。さらに不景気も。
日経新聞も、大手電力が自然エネルギーに震撼という記事を出しました。
ソーラーパネルが普及して、夏場、暑い時の電力需要をソーラーが賄うようになった。
余裕さえできるようになった。今は景気がよくなって設備投資ができるようになり、すればするほど電力消費量が減っています。
現時点でも今後も、原子力がなくても電力は賄えるようになっています。さらにLNGの発電効率もよくなっている。
原発を今すぐ動かさなければいけないというものではない。特段問題ないわけですね。
「原発事故が社会に課すコスト」
柏崎刈羽が動かないと経済的に大変という話はあります。柏崎刈羽が動かないことによってどのくらいの経済影響があるかを計算すると、6・7号機が年間840億円くらいつくっている。新潟県の農業生産額がだいたい1000億円くらいなので、農業生産額を2倍にできれば、それを賄えます。
原子力も安いと言われるが、国の試算でもそれほど安いわけではありません。
原子力規制委員会は、達成すべき安全基準として、過酷事故として炉心損傷が1万年に1回、格納容器機能喪失が10万年に1回、大量放出は100万円に1回と言っています。
しかし、日本に約50基、世界に約500基のプラントがあると単純化すれば、世界でみると、炉心損傷は20年に1回ということになります。
これが本当かどうか。もし、その計算が10倍違ったということになれば、炉心損傷は2年に1回ということになります。本当に1万年に1回でない限り、もう一度福島第一原発事故くらいの事故が起こる可能性はある。
さきほど財政の話をしましたが、もしもう1回事故が起こったら、それはもう日本全体が終わりです。だとすれば、本当に1万年に1回なのか、10万年に1回なのか、よくよく検証しなければならない。国に任せておけばいいということではありません。現に国に任せておいて福島第一原発事故は起きました。いくつもの目で見る必要があります。
単純化した試算で、日本の原子力発電は、1970年から2010年までの40年間の稼働で、今までに8兆kWhを発電し、約80兆円を生み出してきた。そうすると、今回の事故でこの80兆円を全部今回チャラにしたということですね。そうすると一体全体何だったのかということになる。
ともかく原発事故がどのくらいのコストを社会に課すかということについて我々は極めて無知だった。そういうものだということを理解しないといけません。
「県知事に再稼働を判断する権限はあるのか」
これは、私はあると思います。原子力防災は国が決めた制度で、それぞれの場所で県が色々なことをやることになっている。つまり県が、安全に自信が持てないからできないと言えばまったく動かないことになる。そうすると、暗黙の事項として県が了承することになっていると、私は理解しています。
県と原子力発電所は安全確保に関する協定書を結んでいます。その中にこの条項があります。
「第14条 甲(新潟県)または乙(柏崎市および刈羽村)は第10条の規定に基づく立ち入り調査等の結果、特別の措置を講ずる必要があると認めたときには、国を通じ、丙(東京電力)に対し、原子炉の運転停止を含む適切な措置を講ず売ることを求めるものとする。ただし、特に必要と認めたときは、直接丙にこれを求めることができるものとする。なお、この措置要求にあたっては、甲および乙は十分協議し、甲の名において行うものとする。」
つまり、基本的には国を通じて意見を言うことになっているが、特に必要な場合には直接言えることにもなっている。これは私が言い始めたことではなく前の前の知事の時に決められたことで、当時の東電の社長もハンコを押しています。それに法的拘束力がないということは通らないでしょう。
紳士協定だという人もいますが、日本の法律は意趣主義なので双方が合意すれば法的効力を生じる。法律の学者さんもそうだと論文でも述べている。私が勝手に言っているだけではないということです。
法律というのは一般の人が思っているほど答えが一つに決ものではなく、色々な解釈があります。だから裁判をする。もし仮に、新潟県が安全の検証を終わって再稼働を認めますと言わないときに再稼働されたとすれば、この安全協定の条項に基づいて差し止め請求をさせていただく。そうしたら国はそうでないといってくるでしょうけれど、それは議論として成立する。議論として成立する訴訟をすることになるかと思います。
「新潟県の3つの検証」
そういった枠組みのなかで、新潟県の3つの検証を進めています。
県は県民の生命財産を守る責務がある。その根拠となる協定書がある。
そのときに、実効性のある避難計画を策定することは絶対に必要だと思います。避難計画はあるだろうともいわれるかもしれません。しかし、それは地震の避難計画が原発事故に置き換わったようなものです。地震と同じわけにはいかないわけです。地震の場合は一回あれば終わります。ところが原発事故は、福島でわかったように、これから何時間後に何万人逃げてくださいということで、大パニックになる。シミュレーションに近いような手順書をしっかり作らなければならない。
それをどういう手順で作っていくかというと、まずは事故原因の検証をする。物理的に何が起こったのか。すでに国、国会、東電、民間の調査が出されていますが、その4つも同じではない。どれが正しいのか、どれを当てるのか。原発事故の原因の議論はあったとして、注水する部分が壊れていたのかどうか、などきちんと確かめなければなりません。
さらに事故が起こった場合に一定の被ばくが起こったわけなので、健康被害があるのかないのかも検証する。その後に、生活への影響もあった。これは生活委員会で、新潟県に避難されている方にアンケート調査を行った。避難世帯の月の収入は10万円くらい、世帯人数は減り、非正規雇用になり、などと様々な影響がありました。
よく風評被害と言われますが、非現実的な話だと思います。福島第一原発周辺を視察に行き、この辺は年間30mSvほどだから、帰る人もいるなどと説明をされる。
私自身は放射線科医をやっていたので、病院内では10mSvはあまり気にしないです。ところがそこに住むかと言われれば、うーんと考えてしまう。町の場合は、靴の裏にホットな物質がつくかもしれない。そういう意味で簡単に安全だとは言えないし、人によって閾値も違う。それをみんな一律に決めるのは極めて非現実的です。もっと許容値が低い人もいるわけで。人間の心理としてなかなか戻れないという心理になる、そういうことが起きるものとして事故を考えなければいけません。
どういう事故を想定して、どんな避難計画を立てるのか。その時に、一度起こった福島第一原発事故をもとにする。それを総括して報告書を作ろうとしている。
委員の一覧を見ていただくと、どちらの立場の方もいてほどよくバランスがとれた構成になっています。検証を繰り返し避難計画を立て、避難訓練をするということでやっていきたい。その結果をもう一度反映してということをしたいと思っています。
就任する当初は3~4年かかるといっており、今1年たったので2~3年と言っている。
簡単にできることではない。まずは検証して計画をつくるのに1年くらい、そこから避難訓練をしてとなるとまた1年くらいかかります。
きちんとした結論を出す、その上で選択ということになれば、民主的プロセスによって選択されるでしょう。
最近の話題として、東京電力の社員4200人にアンケート調査をしました。今まであまり知られていなかったこととして、その47.5%の社員が炉心溶融しているだろうと考えていたが、対外的に炉心溶融という言葉を使ってはいけないと言われていた。メルトダウンの本当の基準を知っていたのは5%、判断基準に達していることを知っていた者は1.2%だった。このことは県の調査で初めて明らかになりました。
健康・生活委員会については、先ほど言った通りですが、こういうことが起こる、それを認識すべき。人間関係も希薄化しました。また結婚出産に関する差別に不安を感じている人も多かった。嘆かわしいことだと思うが、全員が合理的に考えるとは限らない。事故はそういうものを起こしうる。
避難計画はこのくらい厚いものになるだろう。逆になんで今まで作っていなかったのか。ないということがおかしい。ということで、大手をふって、また法律上も、協定書もあり、すべてに基づいてこれを行っている。
「地域の経済への影響」
最後に、地元の経済への影響ということを言われます。
そんなにすごい影響があったのかということで、先ほども言ったように6・7号機でざっと新潟県の農業生産額と同じくらいの額を生み出していますが、それは東京電力としてであって県に落ちているわけではありません。
1人当たりの所得で見てみると、柏崎市の一人当たりの市民所得は、県の動向・景気の動向と同じように推移しています。雇用情勢に関しても、柏崎は、ほぼ同じ立地条件にある新発田市と同じ。これは当然のことで、柏崎市には東京電力しかないわけではない。みなさん知っているブルボンもあります。
面白いなと思ったのは、ブルボンがなぜブルボンになったのかという話です。新潟は米菓メーカーが多く、ブルボンも普通の米菓メーカーでした。ところが関東大震災で関東のお菓子メーカーも壊滅的な状況になり、お菓子もなくなった。そんな中で新潟の米菓メーカーがお菓子作りを始め、ブルボンのシルベールが当たった。
世界的に自然エネルギーへの潮流がインパクトを与え、私も訪問したデンマークでは自然エネルギー産業が花開き大産業になっています。
日本でも、原子力産業だけでなく、柔軟になる必要があります。当面電力が足りなくなることはまずありません。柏崎市も産業集積はあって、鉱工業や加工業が盛ん。だったらその技術を生かせばいいのです。
デンマークでも、最初はてんさい加工業、造船業、風力と来ている。
ということで、新潟県でも様々な自然エネルギーを促進している、様々な取り組みをしているということを紹介して終わらせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
「日本のエネルギー政策について」
司会:
今エネルギー基本計画見直しの審議会に、福井県知事が参加しています。もし米山知事も意見を求められたらどうお答えされますか。
米山:
まず、私は委員には選ばれないでしょうね。ただ先ほどいったように、少なくとも原発は必須ではない。当面10年20年の中できわめて冷静な目で、エネルギー需給がタイトになることは非常に考えづらい。さらにこの状況において自然エネルギーを推進している国の方がアドバンテージを取っているように見える。すくなくともそういった事実を事実として認めることが必要だし、それをきちんと織り込んでいくことは必要です。
<報道>
日刊ゲンダイ 2018年1月25日
柏崎の再稼働は無理…米山知事が「県に運転停止の権限」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/221889
共同通信 2018年1月24日
新潟県知事、再稼働強行なら訴訟 -柏崎原発巡り
https://this.kiji.is/328860833617478753?c=39550187727945729
ほか、共同通信配信により地方紙掲載多数
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