【eシフト声明】 恣意的な「エネルギーミックス選択肢」

2012年5月24日

【eシフト声明】 >PDF 120524_eシフト声明_基本問題委員会
恣意的な「エネルギーミックス選択肢」
~総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会への意見

eシフト:脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会

エネルギー政策見直しの議論において、総合資源エネルギー調査会・基本問題
委員会は、来週にもエネルギーミックスの選択肢を提示しようとしています。
しかし、これまでのとりまとめに向けた議論では、「脱原発依存」の基本的方
向性に沿わない意見も併記されるなど、既存のエネルギー政策を維持する方向
でまとめようとするために、一部の委員の意見の偏重や事務局主導がみられ、
また三村委員長の采配にも疑問を投げかけざるを得ません。基本問題委員会で
決定される原発の選択肢が、中央環境審議会における選択肢にも自動的に反映
されることになっているため、その偏重の影響は最終的な選択肢の決定にまで
及ぶことになります。各委員からの提案は、同じレベルで尊重・採用されるべ
きで、「福島原発事故の教訓」「脱原発依存」方針から出発したエネルギー政
策の見直しの原則を改めて確認し、その認識を共有した上での議論の積み上げ
が求められます。
複数の委員からもすでに指摘されていますが、下記の大きな課題・問題点につ
いて、eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は、最終決定
にあたり、改めて改善を求めます。

(1)原発の選択肢について、原発ゼロを議論のベースに
「エネルギーミックスの選択肢の原案」では、2030年時点での電力における
原子力発電の割合として0%、15%、20%、35%が提示されています。しか
し、脱原発依存を方針する以上、少なくとも運転40年での廃炉、新規増設なし
の場合の10%~15%を上限の選択肢とし、いかに原発割合を0%にしていくか
を議論すべきです。20%以上の選択肢は、原発の新設やリプレースを前提とし
ていることを明記し、今よりも原発を増やすことになる35%の選択肢は外すべ
きです。現在の選択肢は、基本問題委員会にも寄せられている多数の脱原発を
望む声とも大きく乖離するものです。
原発の維持には使用済み核燃料処理の管理・処分という重大な問題を避けて
通ることはできません。原発ゼロを明確に掲げた上で核燃料サイクルを中止す
る政策をとるべきとする原子力委員会の指摘を反映する必要があります。

(2)2030年時点のみでなく、そこに至る過程と将来像についての議論を
2030年時点での目標を定めることは重要ですが、そこに向け、どのような道
筋をたどるのか、さらにその先の2050年に向けてどのような将来像を描くのか
を提示することも同時に重要です。現在、2030年時点での電源割合についての
議論のみに比重が置かれていますが、原発をゼロにしていくのか、一定比率維
持するのか、それとも結論を先送りするのか、その選択肢を国民に提示するこ
とが重要です。将来の日本のエネルギー利用のあり方についてそうしたビジョ
ンと具体的なプロセスについて議論し、国民にわかりやすく示すことが必要で
す。

(3)電力だけではなく一次エネルギーの選択肢を
選択肢原案では、2030年時点の「電源構成」について議論されています。し
かし、エネルギーの利用方法は電力以外にも、熱や輸送燃料としての利用など
があり、電力は一次エネルギーの4割を占めるにすぎません。従来の発電方法
では、電力は発電過程で投入したエネルギーの約6割が廃熱となるエネルギー
です。したがって一次エネルギーにおける電力の比率はもっと削減されるべき
であり、電力だけの選択肢ではなく、一次エネルギー全体での選択肢を示すべ
きです。

(4)省エネルギー(省電力)の見込みはもっと高い選択肢を
選択肢原案では、2030年時点での電力需要総量について、2010年比でマイナ
ス10%としています。しかしこの数値は、委員の中できちんと議論されたもの
ではなく、すべての選択肢において10%と固定されただけのものです。省エネ
については、省電力だけでなく一次エネルギーの全分野にわたって検討が行わ
れるべきであり、人口減少や産業構造の転換など社会の変化の想定や、まだ大
きく存在している省エネルギーの余地を適切に見込んだものとは言えません。

(5)原発は温暖化対策ではない
原子力発電については「ゼロエミッション電源」として、日本の温暖化対策
の主流と位置付けられてきました。しかし、温室効果ガスを排出しないのは発
電の過程のみであり、燃料の採掘から放射性廃棄物管理・処分までのライフサ
イクルをみれば、大量のCO2を排出しています。さらに、温排水をはじめ熱エ
ネルギーの7割を環境中に捨ててしまうというきわめて効率の悪い発電システ
ムです。排熱による直接の環境影響も無視できません。さらに、放射能汚染の
影響を考えれば、最も環境・社会的負荷の高い発電方法といえます。原子力発
電は、温暖化対策の手段からは除外すべきです。

電力システムの効率化、および一次エネルギーベースでの省エネを進めること
によって、温暖化対策と脱原発は両立します。省エネ率を一律に置いて、原発
の割合で温暖化対策が左右されるような印象を与える選択肢の出し方はすべき
ではありません。
以上

eシフト:脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会 www.e-shift.org
03-6907-7217(国際環境NGO FoE Japan内)info@e-shift.org

※eシフトとは2011年3月11日の福島第一原発事故を契機に、脱原発と自然エネ
ルギーを中心とした持続可能なエネルギー政策を実現させることを決意した、
団体・個人の集まりです。2012年5月現在約60の団体、200名以上が参加してい
ます。