【声明】原子力規制庁の設置に関するNGO声明

大飯原発や伊方原発の再稼働問題が連日大きな動きを見せているかたわらで、原子力規制庁の設置のための国会審議が動き出そうとしています。
私たち市民・NGOが求めているのは、原発の運転継続のための原子力規制庁では なく、既存原発の廃炉庁だと考えます。
市民生活がこれ以上原子力発電による放射能汚染や核廃棄物で脅かされないようにこの法案の審議を監視し、学習会や集会、要請活動を通して、市民の意見を反映 させて行く必要があります。
全国各地で活動する市民・市民団体・NGOが、引き続き力を合わせて行きましょう。

eシフト 規制庁チーム一同

原子力規制庁の設置(原子力組織制度改革法案)に関するNGO声明

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2012年4月27日
政府は、新しい原子力規制組織として原子力規制庁の設置を含む原子力組織制 度改革法案(以下「改革法案」)を国会に提案したが、法案審議は進ま ず、予 定通りの発足はできなかった。このことは、政府が原子力発電の直面している深 刻な状況に真剣な対応を行っていない事の現れであり、同時にこ の法案内容が 問題だらけであること、現在進められている事故調査過程を無視した発足スケ ジュールとしたことなども背景にある。
本来存在すべき原子力規制組織は、福島原発事故後ただちに全ての原発の停止 を命令しているはずである。そして停止している原発の再稼働を、法的 根拠も ないストレステストのみで認めるようなことはあり得ない。 原発は運転停止していても、そこに残される使用済核燃料の問題、廃炉の問 題、放射性廃棄物の管理の問題、目的を失った核燃料再処理と高速増殖炉 の停 止と解体など、さまざまな問題が残され続ける。新たな原子力規制組織は、その ような長期的視点に立ってつくられるものでなければならない。
原子力規制庁が既存原発の存続を前提としたものであるならば、東電福島第一 原発事故の経験を十分に反省し、原発による放射能汚染を2度と繰り返 さないた めに、私たちはその設立に強く反対する。環境省が地球温暖化防止対策に有効と して原発推進を掲げたまま、そこに規制庁を置くことは独立性 を最初からない がしろにするものと言わざるを得ない。 その上で、本来あるべき原子力規制組織の設立を求めるために、NGOなどの諸 団体は合同でこの声明を発表するものである。
1.新組織の検討は、国会事故調査委員会の報告と提言を、議論を始めるための たたき台とすべき。
国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」の黒川清委員 長は、新しい「規制組織のあり方」にまで踏み込んで提言をまとめると してい る。その提言を待たずに原子力規制組織を立ち上げることには理解ができないと の、黒川委員長声明を私たちも尊重すべきであると考える。その 観点からも、 「改革法案」は一度白紙に戻すべきである。
2、原子力組織制度改革法案は問題点だらけである。よって、この法案は白紙か ら再検討されるべきであると考える。
問題1)独立性が担保されていない
「改革法案」では規制機関の独立性がまったく担保されていない。環境省は 政府の一部であり、政府はいまだに原子力推進の立場であり、推進と規 制の分 離になっていない。一方で、自民党案のように、環境省からも独立した3条委員 会としても、内閣府に置かれる事務局に経産省出向者が着任し、 原子力推進の 立場で事務処理を行なうのでは独立性が担保されない。 組織の独立と、原子力推進の立場の人間を職員としないルールを明確に示す必 要がある。新しい原子力規制機関は他の政府機関からも国会からも完全 に独立 した組織とすべきである。
問題2)重要なバックフィット制度が取り入れられるのか極めてあいまい
「改革法案」要綱や原子力安全規制組織改革準備室(以下「準備室」)説明で は、最新の知見を既存施設にも反映し最新基準への適合を義務付ける制 度とな る、バックフィット制度の導入が安全確保のための規制改革の重要点とされてい る。私たちも、その視点が重要であることに同意するが、「改革 法案」の中に はバックフィットの文字はなく、その精神も読み取ることが難しい。バック フィットの定義、ルール、評価方法などが明記されていない現 在の法案では、 本当にバックフィット制度が確立できるのか疑問である。
問題3)新しい安全基準策定のプロセスが示されていない
福島原発事故が引き起こされた背景には、これまで前提とされてきた、「安全 基準(指針類と技術基準を合わせたもの)」が甘すぎたこと、安全性を 担保でき るものでなかったことがある。多くの原発立地自治体の首長や議会でも、そのこ とが指摘をされ、今回の地震や津波の経験を踏まえた安全基準 の見直しが不可 欠のはずである。ところが、その再検討や見直しを、いつ、誰が、どのように行 うのか、「改革法案」には示されていない。新しい安全 基準策定のためのプロ セスも示されていない。
問題4)再稼働禁止命令・運転停止命令を含む権限を明確にすべきだが、その所 在と判断基準があいまい
「改革法案」要綱や準備室説明では、運転停止命令も規制強化の重要点と書か れているが、「改革法案」の条文中では「新たな」再稼働禁止命令・運 転停止 命令が追加されたとは読み取れない。別な形での記述が不明瞭な形で「存在する」のかもしれないが、関連条項が複雑 で容易に把握しきれないような権限では行使もされないことが予想され る。原 子力規制長官に再稼働禁止命令・運転停止命令権限があるのであれば、その行使 の判断基準を含め法案に明記すべきである。
問題5)40年廃炉も20年延長も根拠が示されていない  原子炉稼働後の40年廃炉、さらに20年延長で最長60年までの運転があり得るこ とになっている。しかし、これまで原子炉は耐用年数30年とし て設計されてき ており、原子炉内の試験片なども40年廃炉にすら対応していない。なぜ40年まで 稼働可能となったのか、さらにどういう基準で60 年とできるのか、その根拠を 明確に示すべきである。根拠が示されないのであれば、なし崩し的な40年への延 長は認められない。 40年廃炉の規定は、耐震・対津波に問題のある原発の運転を継続するために利 用されかねない、危険な側面を持つ規定である。
問題6)規制庁関連の役職者への経歴制限が示されていない
原発の過酷事故の再発を防止するためには、福島原発事故を防止できなかった 安全審査の担当者が、新しい規制組織でその任にあたることはあっては ならな い。また原子力推進機関に長く所属し、その立場を反映していた専門家が新しい 規制組織の役職者となることも問題がある。「改革法案」の中 で、以下に示す 役職者は原子力推進組織の出身者や、これまでの原子力規制機関の出身者であっ てはならないというルールを明確に策定すべきである。1 規制庁長官 2 原子力安全調査委員会委員 3 原子力安全調査委員会における専門委員 4 審査専門委員
問題7)事業者責任の強化をかかげながら事業者をチェックする仕組みがない
事業者責任を明確にするには、電力会社や、実際に作業をしている東芝や日 立、三菱等の製造メーカー、その下請事業者等に対し、より直接的・専門 的に 検査・指導を行い、その上で安全を担保する仕組みをつくるべきである。 現在のように検査を原子力安全基盤機構(JNES)等の外部機関に委託するので はなく、原子力規制組織内に技術者を養成し、手抜きや不正を見抜 く力量を持 つことが不可欠である。そのためには、原子力発電に対し批判的な立場で活動し ている技術者を積極任用することも有効な手立てと考える。
問題8)規制組織職員の不正・隠ぺいに対する法的罰則規定がない
「事業者責任の強化」という言葉で、原子力規制組織の責任が軽減されること があってはならない。今回の福島原発事故でも第一義的責任は事業者と され、 原子力安全・保安院や原子力安全委員会等の政府機関の責任はきわめて曖昧にさ れている。規制組織職員の不正・隠ぺいさらに不作為、重大なミ スなどについ てきちんと責任を取らせる仕組みをつくることが必要である。
問題9)情報公開の徹底と、住民参加プロセスがない
今回の福島原発事故は、過酷事故が引き起こす深刻な放射能汚染の被害は原発 から60キロ圏の人々にもおよび、それを超える広範囲な人々にも放射 能汚染の 影響をもたらすことを示した。ところが、「改革法案」には「公聴会」という言 葉も「市民の意見を聞く」という言葉もない。住民への情報公 開の徹底や、住 民参加プロセスが完全に抜け落ちている。 施設周辺住民の意見のみでなく、今回の飯舘村や福島市の一部のように60キロ 圏を超えても深刻な汚染を受ける可能性がある自治体や住民、さらに 食品汚染 などの放射能汚染の影響を受ける、広範な地域の自治体や住民意見も反映するこ とが必要であると考え、以下のシステムを提案する。
a) 原子力施設に関する重要な決定が行なわれる場合や、重大なトラブル等の発 生時には、関係自治体や関係住民を対象に、説明会、公聴会、公開討 論会など の開催を制度化する。b) 上記の説明会等で質問されたことには、一方的に聞き置くのでなく、必ず回 答するというルールが必要である。c) 常に原子力施設の状況に関心を持ち、緊急時の備えを十分に整えるために も、関係自治体や関係住民による「常設協議会」を設立する。d) 関係自治体や関係住民の範囲は、その原子力施設の影響を受ける可能性があ るより広範な範囲としなければならない。
問題10)原子力基本法の目的から、「原子力の研究、開発及び利用の推進」は削 除すべき
原子力行政の根本をなす原子力基本法の改正案には、第一条(目的)に「原子 力の研究、開発及び利用の推進する」ことが依然として明示されたまま であ る。政府が真剣に脱原発依存に向けての政策を進めるのであれば、原子力基本法 から「原子力の研究、開発及び利用の推進」を削除する必要があ る。
結論)原子力組織制度改革法案は白紙から再検討に付されるべき
以上のように「改革法案」には数多くの問題点がある。多少の修正で是正でき る程度のものではなく、根本的に再検討が必要と指摘せざるを得ない。 原子力 規制組織のあり方という根本問題から検討を行なうべきであり、法案そのものの 凍結を求める。 環境省の担当官は、新規制組織の役職者に原子力ムラ関係者を登用するのは当 然であるとの発言を行なっており、この組織立ち上げの担い手としては 非常に 不適当である。
3.原子力安全・保安院と原子力安全委員会は直ちに許認可機能を凍結されるべ きである。新たな安全基準作成の担当など、絶対に許されない。
原子力安全・保安院や原子力安全委員会は、福島原発事故を防ぐことができな かった重大な責任がある。しかもいまだ、その責任を取っていない。本 来廃止 されていなければならないにもかかわらず、これまでと同じ構成で、大飯原発等 のストレステストの結果を評価し、地震や津波に対して安全であ ると結論し、 再稼働を認めるという役割を果たしている。 これらの欠格機関が原子力の安全性に関する判断を行なっても、まったく評価 には値しないことは明らかで、直ちに許認可の判断機能は凍結されるべ きであ ると考える。新たな規制組織ができるまでの間は、放射線量の計測やデータの集 積や分析などの日常業務に限定した存続とすべきである。
以上
NGO声明共同発信43団体(順不同)eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)、原子力資料情報室、福島 原発事故緊急会議、再稼働反対!全国アクション、プルトニウムな んていらな いよ!東京、国際環境NGO FoE Japan、グリーン・アクション、国際環境NGOグ リーンピース・ジャパン、水源開発問題全国連絡会(水源連)、ふぇみん婦人民 主クラブ、特定非営利活 動法人 日本消費者連盟、 (NPO) R水素ネットワーク、 足元から地球温暖化を考える市民ネットたてばやし、怒髪天を衝く会、みどりの 未来、市民による放射線測定アクションまちだ、太陽光・ 風力発電トラスト、 日本キリスト教団神奈川教区核問題小委員会、NCC平和・核問題委員会、非暴力 アクションネット(HANET))、憲法を生か す会、環境教育ふくおか、さよなら玄 海原発の会・久留米、イマジン@せや、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団、原 発八女ん会、APFS労働組合、 さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト、柏崎原発 反対地元三団体、川内原発建設反対連絡協議会、川内つゆくさ会、グリーン市民 ネットワーク高知、東 北アジア情報センター(広島)、原発さよなら四国ネッ トワーク、脱原発市民ネットワーク徳島、子どもの人権と教科書の問題を考える 越智・今治の 会、青森県保険医協会、みらいアクション青森、東京・生活者 ネットワーク、玄海原発プルサーマル裁判の会、玄海原発プルサーマル裁判を支 える会、 プルサーマルと佐賀県の100年を考える会、No Nukes野に行く会・ 相模原
eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)には、以下の団体が参 加しています
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